Office LINQCULの正岡です。兵庫県西宮市で社会保険労務士と認知科学コーチをしています。
今回は、最低賃金の改定方法や検討方法についても解説します。
毎年10/1に最低賃金の改定があります。
特にここ数年、インフレも相まって上昇幅はこれまでよりも一段と大きくなりました。
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円。目安から56円の引き上げで、東京は1,280円、宮崎は1,085円。
多くのパターンでは、最低賃金を割っている人の時給差分に、労働時間をかけて人件費を計算します。
ですが、最低賃金の上昇に伴い考慮すべき点は、本当に最低賃金を割っている人だけでしょうか?
最低賃金の引き上げで本当に痛みを感じるのは最低賃金を割っている人ではなく、
最低賃金を少しだけ上回っているパートさんです。
今日はこの論点で解説します。
【この記事を読んで獲得できること】
- 日給や月給の人の最低賃金の計算方法や最低賃金に含めるべき金額の対象が明らかになる
- 最低賃金引き上げに伴う昇給の計画の立て方が明確になる
最低賃金とは?
最低賃金とは、最低賃金法に定められた、
使用者はその額以上は必ず支払わなければならない賃金のことを指します。
最低賃金法では、「最低賃金は時間によって定めるものとする」
と記載があります。
そのため日本では、時給〇〇円が最低賃金の基準とされています。
最低賃金の決め方
最低賃金を決めるには、毎年7月ごろに「中央最低賃金審議会」という厚生労働省管轄の組織が
- 労働者の生計費
- 労働者の賃金
- 通常の事業の賃金支払い能力
の観点で議論し、国全体での目安となる引き上げ金額を決めます。
その目安となる引き上げ金額をもとに、各都道府県の「地方最低賃金審議会」が都道府県ごとの最低賃金を決定します。
最低賃金の計算方法
時給〇〇円のような場合は、パートさんの計算がしやすい。
ただし、最低賃金 改定 検討を踏まえるべきです。
月給△△万円 のような正社員は最低賃金の計算がしにくいですよね。
どのように最低賃金を算出したらいいのでしょうか?
厚生労働省の例では、以下のように算出します。
- その会社の「月平均所定労働時間」を算出する
- 月平均所定労働時間→「(365日-休日日数)×1日の労働時間÷12ヶ月」で算出
- 月給を時給換算する
- 毎月決まって支給される賃金のうち、除外すべき金額がないか確認する
- 除外すべき金額は
- 時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当などのいわゆる残業代
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
- 賞与
- 結婚祝い金などの臨時に支払われる賃金
- 除外すべき金額は
- 毎月決まって支払われる賃金から除外すべき金額を控除する
- 2で残った金額を1で算出した「月平均所定労働時間」で割ると時給換算できる
- 毎月決まって支給される賃金のうち、除外すべき金額がないか確認する
- 時給換算した金額が最低賃金を超えていればOK

Tips こんな時どうする?
Q1.会社が全国展開されているんですが、どの最低賃金を見たらいいですか?
例えば、横浜に住んでいて、都内に通勤している場合は東京都の最低賃金を引用します。
Q2.テレワークしてたらどうしたらいい?
テレワークをしていたとしても、その従業員が所属する事業の事業所がある都道府県がある場所の最低賃金が適用されます。
Q3.シフト制で1日の労働時間や勤務日数が不定期なんだけど
シフト制の場合、労働契約で予め時間や日数が明示されていたり、平均してどれくらいかが明示されているかと思いますので、その日数や時間をもとに算出します。
シフト制についてはこちらでも記載しているのでよかったら参考にしてください。
Q4.派遣社員はどこの最低賃金が適用される?
派遣先の事業場のある都道府県の最低賃金が適用されます。
最低賃金の改定で実は割を食う(損をする)ベテランパートさん

最低賃金の上昇により、水準を満たしていない人の最低賃金は自動昇給です。
問題は次です。
例えば、時給1120円で入社したばかりのパートさんと、
時給1180円で5年間働いているパートさんがいるとします。
差は60円。
この差はなんですか?と問われた時に、おそらく多くの経営者さんは
- 5年分の経験による職務遂行能力の違い
- 任せている業務の違い
を要素に挙げるでしょう。
しかし、最低賃金が全国加重平均(1177円)と同様になったとき、
この5年分の差は何もしなければ、一気に3円の違いにまで埋められてしまいます。
つまり、5年間の経験と業務の違いは、それまでのプロセスを無視され、
外部要因によってほとんど差がない状態にまで埋められてしまいます。
社内の等級や序列は業務ではなく外部要因によって機能性を失いかけます。
ここが最低賃金改定の大きな影響です。賃金カーブを下から押し上げるものの中間層のことを誰もみず該当者の差分だけを計算していると、事故が起こる要因となります。
これが「割を食うパートさん」の実態です。
「頑張っても同じ」が生まれる瞬間
ここから認知の話に移ります。
人が報酬に不満を持つとき、その不満は金額の絶対値から生まれているとは限りません。
多くの場合、比較から生まれます。
自分の時給が上がらなかったこと自体は、受け入れられることがある。
もちろん不満でしかないことには限りありませんが、
周りは変わってないのなら仕方ないとも思う。
でも、隣で先月入った人の時給が自分とほぼ同じになったと知れば話は別です。
切り替わるのは金額の認識ではありません。
「この会社は、自分が積み上げてきたものを見ていない」という認識です。
そしてこの認識が固定されると、行動が変わります。
- 業務範囲を広げようとしなくなる
- 後輩の面倒を見なくなる
- 改善の提案をしなくなる
評価されないならやる理由を失いますよね。慈善活動じゃないので。
一方で経営側から見ると、これは「最近やる気がない」と映ります。
けれど実際に起きているのは意欲の減退ではなく、
報われる構造が消えたことへの適応です。
人は、自分の可能性を過小評価しているときに停滞する。
そして「頑張っても同じ」という環境は、その過小評価を外から強制する装置になります。
実は自分の母親がそうでした。
派遣から直接雇用でパートになった母親は最低賃金の上昇のたびに自分の昇給額と最低賃金付近の社員の昇給額のアンバランスさに不満を抱えていました。
ですが、新しくパート先を探すのも大変なので安く買い叩かれている状況となっていました。
全体最適での最賃改定の対応策は?
では対応策をどうするか?2点選択肢を考えてみます。
- 時給制社員の昇給(労働契約の更新)は10月起算に設定する
- インセンティブの設計をする
時給制社員の昇給(労働契約の更新)は10月起算に設定する
時給制社員(パートさん)は多くの場合契約社員であることがほとんどです。
その場合、契約更新の時期に新たな雇用契約を締結します。
契約更新の時期を一斉に揃えることで昇給のタイミングとし、全員昇給とします。
デメリットは昇給のタイミングを揃えただけで、人によっては昇給幅にばらつきが出てしまうことです。
最低賃金ギリギリの支給にしないことが理想の形です。
インセンティブの設計をする
パートさんの評価指標を定量的に判断するとしたら、どのような判断軸が生まれますか?
インセンティブの設計は基本給を全員最低賃金で一律揃え、パートさんの能力の差をインセンティブとして支給することでバランスを保つ方法です。
これにより、年次や能力・パートさんの役割に応じた賃金支給が可能となります。
ただし、等級制度の整理や各種等級の定義、評価指標の設計など
会社の制度設計にも影響する箇所になりますので一長一短でできることではない可能性があります。
また、等級が下がる場合の設計が労働契約法による労働条件の不利益変更に該当しないかも注意が必要です。
理想起点の報酬制度は?
3年後、自社の報酬制度は誰に報いるものになっているでしょうか?
勤続年数なのか、担っている業務範囲なのか、成果なのか、育成への貢献なのか。
この問いに明確な答えを持っている会社は、最低賃金の改定のたびに慌てて昇給を考えることも少なくなります。
ただ「数字を上げなければならない」ではなく、「上げたとしてこの数字は何の数字か」が明確になっているからです。
今年は法律改正に合わせて上げなければならないかもしれない。でも3年後は?
理想最適な設計をした時に全員でどれくらいの売り上げを達成しなければならないだろうか?
そのために全員で合意して効果的にアクションできる領域はどうなるだろうか?
そう考えると、最低賃金の改正は労務の問題ではなく、経営の問題に変わります。
つまり、人事担当者や事務員さんが検証することではなく、経営層が検証すべきことに変わります。
その時、今年やるべきことは原資の捻出とともに、賃金の意味の言語化かもしれません。
まとめ
さて、今回は最低賃金について記載しました。
よくあるパターンだと、最低賃金に関する記事は
- 最低賃金が〇〇円になります
- 最低賃金の決め方
- 最低賃金を決める上での注意点
- やることリスト(試算、契約変更)
で終わるかと思いますが、一歩踏み込んでみたつもりです。
最低賃金の改定は会社の外からの圧力による制約です。ですがその制約を自社に当てはめたときに自社で言語化できていない部分に気づかせてくれるパロメータでもあります。
毎年最低賃金の上昇に苦しめられている会社さんも多いと思いますが、ぜひ別の観点で最低賃金を見てみると、取るべき行動が変わります。
毎年苦しめられているなら、おそらく来年も苦しめられてしまうかもしれない。
なら、今年は少し考え方を変えてもいいかもしれません。
制度を守るための対応で終えるか、報酬の意味を言語化し直す機会に変えるか。せっかく働くなら楽しい方がいいと自分は考えていて、その楽しさの一部は、自分の仕事にきちんと値がついていると納得できることの上に立っています。
まずは現在地を確認するところから確認してみましょう。
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