社会保険労務士の正岡です。
華金ではなく月曜日が楽しみな「華月」を目指して
兵庫県西宮市で人事労務のコンサルティングとコーチングを実施しています。
今回は最低賃金の改定と手当について解説します。
毎年秋になると、多くの都道府県で地域別最低賃金が改定されます。
最低賃金に近い時給でパート・アルバイトを雇用している企業では、「時給をいくら上げればよいか」が最初の検討事項になるでしょう。しかし、最低賃金の改定で確認すべきなのは、時給制の従業員だけではありません。
月給制の正社員であっても、基本給が低く、通勤手当や家族手当、固定残業代などを含めて給与総額を設計している場合、時間額に換算すると最低賃金を下回っている可能性があります。
また、最低賃金をクリアするために手当を新設・増額したとしても、その手当の性質によっては最低賃金の計算に含められません。
本記事では、最低賃金法と労働基準法をもとに、最低賃金の改定時に経営者・人事担当者が確認すべきポイントを解説します。
最低賃金とは?

最低賃金とは、最低賃金法に定められた、
使用者はその額以上は必ず支払わなければならない賃金のことを指します。
最低賃金法では、「最低賃金は時間によって定めるものとする」
と記載があります。
そのため日本では、時給〇〇円が最低賃金の基準とされています。
最低賃金の改定時期
最低賃金を決めるには、毎年7月ごろに「中央最低賃金審議会」という厚生労働省管轄の組織が
- 労働者の生計費
- 労働者の賃金
- 通常の事業の賃金支払い能力
の観点で議論し、国全体での目安となる引き上げ金額を決めます。
その目安となる引き上げ金額をもとに、各都道府県の「地方最低賃金審議会」が都道府県ごとの最低賃金を決定し、10月1日づけで原則最低賃金が改定されます。
※上昇額によっては、都道府県に応じ10月1日より遅い日にちで改定とするところもあります。
最低賃金の種類
最低賃金には
- 地域別最低賃金
- 特定最低賃金
の2種類存在しています。
上記の毎年10月に改定される最低賃金は地域別最低賃金を指し、一般的には地域別最低賃金のことを多くは最低賃金と呼んでいます。
特定最低賃金は「特定の産業において、地域別最低賃金よりも高い最低賃金を定める制度」です。
関係労使の申し出に基づき、地方最低賃金審議会が必要と認めた場合に審議し、決定されます。
例えば製造業や小売業界など、社会的な必要性が高いものの賃金が低い業界に設定されることが多いです。
詳細は厚生労働省のページを参照ください。
最低賃金の減額特例
都道府県労働局の許可を得ることで、地域別最低賃金を下回る金額の最低賃金を設定することができる場合があります。
【特例の対象者はどんな人?】
- 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い人
- 試用期間中の人
- 軽易な業務に従事する人
- 断続的労働に従事する人
ただし、一律可能ということではなく、許可申請をすることによる個別判断です。
例えば障害要件や使用期間中の賃金に関しても、障害を持っていれば減額特例に該当するわけではなく、それが業務にどのように影響を与えるかが判断されます。
詳細は厚生労働省のページを参照ください。
最低賃金の改定方法・算出方法
最低賃金の計算対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。ただし、給与明細に記載されているすべての手当を含められるわけではありません。
最低賃金に含める手当・含めない手当
最低賃金の計算から除外される代表的な賃金は、臨時に支払われる結婚手当などの賃金、賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金です。
さらに、毎月支給している場合であっても、精皆勤手当、通勤手当および家族手当は最低賃金の計算から除外されます。
| 最低賃金に含める手当 | 最低賃金に含められない手当 |
| 原則最低賃金に含められない手当を除くもの | ・臨時に支払われる賃金(賞与など) ・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(四半期ごとの歩合給など) ・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外労働に対する残業代) ・所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(時間外労働に対する残業代、休日労働手当など) ・午後10時から午前5時までの労働に対する割増賃金(深夜労働手当の割り増し分) ・最低賃金において参入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当) |

【具体例】
基本給:21万円
資格手当:2万円
固定残業手当:4万円
通勤手当:1万円
家族手当:1万円
総支給額:29万円 の時、最低賃金の計算に含めるべき金額は基本給+資格手当=23万円が最低賃金を超えるかどうかで判断します。
最低賃金を超えているかどうかの計算方法
最低賃金を超えているかどうかは、日給制だろうと月給制だろうと、すべて時給換算した結果が
最低賃金額を超えているかどうかで判断します。
- 時給制の場合
- 時給単価≧最低賃金 を満たすこと
- 日給制の場合
- 日給単価÷1日の所定労働時間≧最低賃金 を満たすこと
- 月給制の場合
- 月給単価÷月の平均所定労働時間≧最低賃金 を満たすこと
月の平均所定労働時間の算出方法
(「1年の暦日数」-「その会社の休日日数」)×1日の所定労働時間÷12ヶ月 で算出できます。
【日給制の例】
1日8時間の労働で12,000円稼ぐ場合
日給単価12,000円
したがって12,000円÷8時間=1500円 が最低賃金を超えていればOK
【月給制の例】
月給20万円で1日7.5時間、年間365日、休日124日の会社に勤務する人が最低賃金を超えているかどうか?
休日124日なので、1ヶ月の平均所定労働時間は(365-124)×7.5時間÷12ヶ月=150.625時間
20万円÷150.625時間=1327円 が時給単価
最低賃金を割ってしまうことのリスク
ここまで最低賃金について記事を書きましたが、
最低賃金を割ってしまうとどのようなリスクがあるのか解説します。
法律違反なのはわかりますが、具体的にどのような違反なのでしょうか?
※参考:大阪労働局HP
地域別最低賃金を満たしていない賃金で雇用するとき
地域別最低賃金を満たしていない賃金で雇用している場合、
50万円以下の罰金に処せられる場合があります。
地域別最低賃金は上回っているが、特定最低賃金を下回っているとき
地域別最低賃金≦その人の時給単価<特定最低賃金 の場合は
労働基準法の違反により、30万円以下の罰金に処せられる場合があります。
Tips
労働基準法には、賃金は「その全額を支払わなければならない」という原則がありますが
特定最低賃金を満たしていない場合は、その全額に不足しているため、労働基準法違反となります。
罰金だけ払ったら解決?
罰金だけ払ったら解決ではなく、不足している未払い賃金は合わせて支払いの必要があります。
罰則がつくことよりも、こちらの方が経営には大きな打撃だと考えられます。
Q&A 最低賃金の改定でこんな時はどうする?
最低賃金にまつわるQ&Aや注意事項をまとめます。
Q1.会社が全国展開されているんですが、どの最低賃金を見たらいいですか?
例えば、横浜に住んでいて、都内に通勤している場合は東京都の最低賃金を引用します。
Q2.テレワークしてたらどうしたらいい?
テレワークをしていたとしても、その従業員が所属する事業の事業所がある
都道府県がある場所の最低賃金が適用されます。
Q3.シフト制で1日の労働時間や勤務日数が不定期なんだけど
シフト制の場合、労働契約で予め時間や日数が明示されていたり、平均してどれくらいかが明示されているかと思いますので、その日数や時間をもとに算出します。
シフト制についてはこちらでも記載しているのでよかったら参考にしてください。
Q4.派遣社員はどこの最低賃金が適用される?
派遣先の事業場のある都道府県の最低賃金が適用されます。
Q5.固定残業代を支給しているんだけど、気をつけることある?
時給単価が変わって固定残業代が変わらないということは、
固定残業代に含めている時間外労働の時間数が減少してしまうことを指します。
そのため、時給単価が変わったら、当初の想定の時間外労働時間分の残業代が支給できているか見直しを行い
固定残業手当額も改定が必要です。
Q6.(介護福祉関係向け)処遇改善手当も最低賃金に含めてもいい?
結論は含めてもOKです。
ですが、処遇改善の目的を鑑みると、含めずに最低賃金を満たしていることが望ましいと言えます。

Q7.給与の締めが10日締めで最低賃金の計算ややこしいから11日から改定でOK?
10/1最低賃金が1050円→1100円となり、今が1075円だが10/1から1100円にする場合、これはNGです。
この場合、10/1〜10/10で最低賃金を割ってしまったら法令違反となります。
9/11〜9/30は1075円の賃金で計算し、10/1〜10/10で1100円で計算する
もしくは
9/11から時給1100円で契約変更して計算するなどの対応が必要です。
最低賃金の改定とともに連動する労務実務
最低賃金が改定された時、ただ時給を上げればいいだけではありません。
この一案件と連動してさまざまな労務イベントが控える可能性があります。
チェックリスト的に確認してみてください。
雇用契約書(労働条件通知書)の配布し直し
賃金は重要な労働条件となりますので、改定の場合は従業員に雇用契約書(労働条件通知書)によって
通知をすることが求められます。
また、固定残業代を支給している場合はその内訳、含めている時間数の明示内容が変わりますので
必須で新しく配布してください。固定残業代は正しく運用しないと固定残業代としてみなされない可能性もあります。
実体の雇用契約と書面の雇用契約が一致していないことは重大な労務トラブルを引き起こすきっかけになります。
この機会に見直しをされることをお勧めします。
パート社員の就労調整が発生するか確認をする
税法上の扶養・社会保険上の扶養内で勤務することを条件としているパートさんがいる場合
最低賃金の改定により年収が増加することで、勤務日数を調整することを検討するパートさんもいます。
これにより人員配置の再検討が要求されます。
短時間労働者の社会保険の加入
パートさんが就労調整をせず、会社が特定適用事業所に該当する場合
時給が上がることで社会保険に加入する可能性も出てきます。
それにより会社に法定福利費の負担増が想定されます。どの程度の増加があるのかの試算も必要でしょう。
社会保険加入者の随時改定(月額変更届)の実施
最低賃金の上昇により、基本給が変わることは随時改定のきっかけとなる
固定的賃金の変動に該当します。
固定的賃金の変動後3か月間の報酬平均による標準報酬月額が、従前と原則2等級以上変わり、各月の支払基礎日数などの要件を満たす場合は、月額変更届を提出します。
最低賃金の改定直後に手続きが発生するわけではありません。給与改定後の3か月間を確認したうえで随時改定の該当性を判断するため、後日の確認予定を給与・社会保険の管理スケジュールに入れておく必要があります。
標準報酬月額が変われば、会社負担・本人負担双方の社会保険料も変わります。
まとめ:最低賃金の改定と手当変更
最低賃金の改定は毎年実施される恒例行事です。
ルーティン業務として実施し常に慌てることのない運用が必要となります。
それには7,8月ごろから着実に準備を進めるスケジュール作成が必須です。
進め方に悩んだり、どのように具体的な作業を行なっていったらいいかわからない場合は
ぜひOffice LINQCULにお問い合わせください。